銅のすぐれた超抗菌作用
「銅壺(どうこ)の水は腐らない」、「水たまりに銅片を入れるとボウフラが湧かない」という話があるように、銅には昔から抗菌作用があると言われ、様々な研究がされています。いまから100年以上前の1893年(明治26年)スイスの植物学者 ネーゲリーが「微量金属作用」というものを発見しました。微量金属作用とは、水などに溶け出した僅かな量の金属イオンが細菌類のはたらきを抑える効果があるというものです。銅の抗菌作用に関しては、昨今猛威を振るう新型コロナウイルスの影響で着目されてきております。このページでは銅がもつ抗菌作用についてご紹介します。
菌やウイルスに対する銅の超抗菌作用
日本銅センターによるとA型インフルエンザウイルスを銅(C1100)の表面に接触させ経時的に感染数を測定したところ、1時間後に接種量の75%相当のウイルスが死滅し、6時間後には0.025%まで減少したという試験結果が出ています。細菌の種類によって銅の抗菌作用の強弱はありますが、ノロウイルスや病原性大腸菌O-157に対する不活性にも有効であることが判明しています。
引用元:銅の超抗菌性 一般社団法人日本銅センター
銅による院内感染対策
病院や医療機関内で、新たに細菌やウイルスなどの病原体に感染してしまう「院内感染」という言葉。昨今ではコロナウイルスの影響によりメディアなどでもよく取り上げられています。院内感染の予防に銅の抗菌作用を役立てようという世界初の試みは2005~2013年に国内の病院で実施されています。実施内容としては、病棟や外来診療室に銅および黄銅製の床材、ドアノブやハンドル、手すり、シャワーヘッド、洗面台などを設置し、一般細菌やMRSAを含むブドウ球菌などの細菌について培養検査を行い、銅を設置した所の菌数が設置していないところの菌数に比べて減少しているかを調べるというものです。その結果、銅や黄銅製品を設置することで、接触および非接触環境面に付着する細菌の数は明らかに減少することが分かっています。
引用元:銅の超抗菌性 一般社団法人日本銅センター
抜群の抗菌性能を発揮する銅管
銅は、耐食性、加工性、リサイクル性などにすぐれた特徴がたくさんあります。さらに銅の抗菌作用で衛生的に使えるということも大きな特徴であり、多くの建物で給水・給湯配管に使用する銅管となって、私たちのライフラインを支えています。
この銅管を用いた大腸菌への抗菌効果は試験により実証されております。実験内容としては、銅管とその他の管(架橋ポリエチレン、ステンレス鋼管、塩ビライニング銅管など)計7種類の管材それぞれに大腸菌を含む菌液を入れ、数時間おきに検査をしました。
試験の結果、銅管には大腸菌の生存数を低下させるはたらきが認められましたが、銅管以外にはこのようなはたらきは見られませんでした。この結果から、銅管は樹脂系や他の金属の管材に比べ、すぐれた抗菌性能をもつことが実証されています。
引用元:銅の超抗菌性 一般社団法人日本銅センター
下水処理場でも活躍する銅板
弊社でも材料および加工品で取り扱いのある、下水処理場の最終沈殿池に使用される越流板。銅板を使用する以前は大量に藻が発生してスムーズな水処理ができなくなり、しかもこの藻にボウフラが湧き、蚊の発生源となっていました。近年では、銅板が使用され、銅の微量金属作用による防藻効果によって藻の発生を抑制することで高い評価を受けています。
下水道処理場施工例
私たちの身近な銅製品
銅には微量金属作用により細菌のはたらきを抑える効果がありますので、私たちの身近なところにも様々なかたちとなって利用されています。例えば、10円玉だけではなく、5円玉、50円玉、100円玉、500円玉硬貨も銅を主成分とする銅合金で出来ており、そのおかげでコインの表面は細菌が繁殖せず清潔さを保ってくれています。
また,昨今ではコロナウイルスの影響で半永久的に抗菌効果がある銅繊維が織り込まれたマスクや接触予防手袋、ドアオープナーをお求めになる方が増えてきているようですし、私たちが日々使用している電気を運ぶ電線、パソコンやスマートフォン、家電などの電気製品、自動車はもちろん地球環境に配慮されたハイブリッドカーや電気自動車などなど…目に見えないところにも銅はたくさん使われており、これからの未来にも銅はますます活躍していくと考えられます。
超抗菌効果のある製品の証
日本銅センターでは日本限定のCU STAR(シー・ユー・スター)マークを作製し、銅の超抗菌性能を活かした材料や製品を世に普及させるための活動を行っています。
米国環境保護庁(EPA)が認めた60質量%以上の銅を含む銅および銅合金材料やそれを用いた製品に加え、銅蒸着フィルム(蒸着とは…金属などを蒸発させて、素材の表面に付着させ薄膜を形成する方法の一種)や銅繊維製品、銅粉をプラスチックに配合した複合製品など、銅の超抗菌性能を持つ幅広い材料や製品が対象となっています。
CU STARマーク
健康に不可欠な栄養素
食物に含まれている金属といえば鉄分はよく耳にしますが、私たちが普段口にする食品にも銅は含まれています。銅も不足すると銅欠乏症という病気になりますので、赤ちゃんの健やかな発育に役立つ粉ミルクにも非常に僅かな量ですが、敢えて銅を添加するくらい健康には大切なものです。
(ちなみに1983年の認可まで銅は食品添加物として認められておりませんでした。これは銅が食品中に広く含まれていて、それまで欠乏症例の報告が少なかったことも起因しています。)2004年3月、銅は厚生労働省によって「栄養機能食品」として表示ができる栄養成分のひとつに定められました。栄養機能食品とは、特定の栄養成分の補給のために利用される食品で、栄養成分の機能を表示するものです。
緑青への誤解
抗菌性能を持つ銅ですが、銅のさびの一種である「緑青」は長い間有毒なものであると信じられていました。
原因ははっきりしませんが、昭和時代の小学校の教科書には「銅のサビの一種である緑青には毒性がある」という記載があったことや、緑青のグリーンが毒々しく見えたので、いつの間にか毒だと信じ込んでしまったのではないかとも言われています。
厚生省(現厚生労働省)も、1981年から国の研究として動物実験に着手し、3年間に渡る研究の結果、緑青は「無害に等しい」との認定を出しました。
米国政府も認定
2008年3月に米国環境保護庁(EPA)より、「銅、真鍮、ブロンズなどは人体に有害な致死性のある病原体を殺菌し、公衆衛生に効果がある」という表示が法的に認定されました。実際に公衆衛生上効果があるとEPAが認めた固体材料は銅が初めてであり、これは銅および銅合金が各種病原細菌に対して抗菌作用をもつことを証明しています。このようにすぐれた抗菌性能を持つ銅はこれからの将来も様々な分野で活用が期待されています。
参考文献
・一般社団法人日本銅センター 日本銅センターのHPはこちら
・一般社団法人日本銅センター発刊資料「銅と衛生」、発行人:久賀俊正、デザイン:大野デザイン室、